その日はメンバー全員で飛行場の草刈をしていました。朝からやってお昼過ぎにやっと終わり、山口さんがYS60を積んだファンフライを飛ばしていたときです。突然「ウルセンダヨー」の一声がYSのエンジン音をかき消しました。
見るとそこにはナタを振り回す男が仁王立ちしております。先住民の「プーちゃん」。プーちゃんは興奮状態で、自ら住家にしている廃車のテールランプを“バキッ、パリン”とナタで打ち砕いております。山口さんも異常事態に気がつき、緊急着陸させ大切な機体をナタでぶった切られては大変と大急ぎ。
「どうする?帰れないねー」
そうだったのです。プーちゃんは川原にある一本道を塞いでいたのです。
「警察を呼ぼう」
何処からか聞こえてきました。数年前なら電話BOXまで走らなければいけないのですが、今は携帯電話という便利なものがあります。チョッと肩が触れたぐらいで殺し合いになる御時世ですから、大事になる前に110番しましたが“なんの目標物もない川原”なもので
「XX橋から下流に2キロぐらい行ったところにある左岸の空き地です」と伝えても
「なにか大きな建物とか高圧線とかありますか?」
“ラジコンの飛行場なのに、そんなものが近くにあるわけ無いでしょ!“と言いたかったけど抑えて
「対岸に火葬場があります」と告げると今度は
「怪我人は要るんですか?」
「まだいません」
「じゃぁ、出動できませんねぇ。忙しいから」
「もうすぐ怪我人が出るかも知れません」
「なんでそんなこと分かるの?イタズラは止めてくださいね、忙しいんだから」
「ナタを振り回しているから怪我人でも大怪我すると思います、急いで来て下さい、お願いします」
「分かりました、警察官を向かわせますのでその場を動かないでください」とやり取りすること約5分。
もしも凶悪犯なら殺されている。実際にお巡りさんが到着したのはそれから10分後、しかも対岸をカブでウロウロしている。
皆で「オーイ、こっちだー」と呼びかけているうちにプーちゃんは自転車に乗って何処か行ってしまった。
やっとお巡りさんが私たちのところへやって来て
「どんな男ですか、歳はいくつぐらい?特徴は?」とTVのサスペンスと同じだと妙な感動をしながら
「長身で痩せ型、歳は50ぐらい、無精ひげを生やしてメガネを掛けています」と、すらすら答えられた。
これも女房が大のサスペンスファンで、一緒に観ていたからだろう(どうでもいいこと)
「あなた方はここで何をしていたの?」
「ラジコン飛行場の草刈をしていました、一段落したので飛行機を飛ばしたら男がナタを振り回し奇声を発したのです」
「そう、で、怪我は?」
「まだ何も・・・」
やっぱり犠牲者がいないとダメなのか?TVでも死人が出てから刑事がくるもんなぁ(またまたどうでもいいこと)
「男は何処に行ったか分かる?」
「たぶん買い物でしょう」
「・・・・」
「よくこの時間になると買い物に行くみたいだから・・・」
「知り合い?」
「いいえ、でも顔見知りかなぁ・・・」
すると覆面パトカーが土手のうえに現れ、強そうな警官が二人降りてきた。
お巡りさんが敬礼してる。“本署の人らしい”彼らに同じ事を説明した。
プーちゃんの帰りを全員で待っている間、本署の警官の一人が昔Uコンをやっていたらしくラジコン談義が弾んでいた。
“キーィ、キキ、キーィ”
プーちゃんが自転車で帰ってきたのだ。異様な雰囲気に気がついたプーちゃんは逃走を試みた、が、
本署の凄みのきいた「オイ、待てオヤジ!」の一声でその動きは止まり、お巡りさんに取り押さえられこちらに連行されてきた。
プーちゃんは「昼寝中に頭上で爆音がしたので、ついカッとなってしまった」と前面的に認め、皆さんに謝罪したいと言ってきた。
私たちは「謝罪はいいからこれから何もしないと約束してくれるだけでよい」と伝達役の警官に告げた。
凶器のナタも押収され一件落着した。
<今回の事件で学んだこと>
なんの目標物も無い川原で、自分の居場所を正確に伝える手段を身に付ける必要がある。
たとえば、ラジコン機の墜落で怪我人が出た場合など携帯で119番したものの、場所を正確に伝えられなければどうしようもない。110番119番ともにセンターにつながるため、住所以外は伝わりにくいのだ。“通称XX通り”とか“緑色の大きな建物”などはダメ。皆さんのクラブは正確に伝えることができますか?
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